大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和63年(ネ)102号 判決

控訴人

遠藤明暉

控訴人

瀬川光雄

右両名訴訟代理人弁護士

青木正芳

被控訴人

(日本国有鉄道承継人)

日本国有鉄道清算事業団

右代表者理事長

杉浦喬也

右訴訟代理人弁護士

秋山昭八

平井二郎

右指定代理人

中野誠也

外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「原判決を取り消す。控訴人らが被控訴人との間で雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。被控訴人は昭和五八年二月一日以降毎月二〇日限り、控訴人遠藤明暉に対し金二一万九八〇〇円ずつを、控訴人瀬川光雄に対し金三〇万四一〇〇円ずつを、各支払え。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張と証拠の関係は、控訴人らにおいて別紙のとおり主張を補足し、当審における証拠関係が当審記録中の証拠目録記載のとおりであるから、ここに、これを引用する。

理由

一当裁判所も、原審と同様に、控訴人らの請求を理由がないものとして棄却するのを相当と判断するのであるがその理由は次項以下のとおり附加、訂正及び当審における主張に対する判断を加えるほかは、原判決理由説示と同様であるから、ここに、これを引用する。

二附加、訂正

1  原判決二五枚目裏七行目の次に、行を変えて次のとおり加える。

「国鉄は、昭和五七年一一月二六日、仙台鉄道管理局長名により、控訴人遠藤に対し、兼職の承認の取扱いが改訂されたのに伴い、同年一一月一日以降に改選により公職の議席を得た者に対しては兼職の承認を行わず、また同人が現に兼職の承認を得ている点については昭和五八年一月三一日以降承認を行わない旨を文書で通知した(〈証拠〉)。」

2  原判決三〇枚目裏七行目の「他方」以下同三一枚目表三行目の「首肯しうるものである」までを次のとおりに改める。

「しかし、前記兼職基準規程三条のとおり、職員が市町村議会議員に立候補したときはその旨を所属長に届け出なければならないものとされ、また、同規程五条により、市町村の議会の議員に当選した職員のうち、兼職を希望する者は、直ちに所属長に兼職の承認願いを提出し、その承認を受けなければならないものとされているのであって、この規定を国鉄法二六条二項本文により、地方公共団体の議会の議員は職員であることができず、同項但し書により、総裁の承認を受けた者のみが職員であることができるものとされている規定の趣旨とを総体的に把握すれば、職員が市町村の議会の議員に当選したときは、総裁の承認がない限り、職員の地位を有することはできないのであり、右兼職基準規定の取扱いは、職員が市町村の議会の議員に立候補したときは、所属長において当選の際に兼職の承認をなしうるや否やを事前に審査し、適宜の指導ないし承認の内示をなしうる体制にして、職員が当選後兼職を認められないこととなる場合に生じるであろう混乱を未然に防止するとともに、当選者に対しては兼職を認めるのを相当とする場合にのみ事後的に承認を与えることによって兼職を認めることとしたものであると解釈されるのである。

もっとも、前述の如く昭和五七年の閣議決定及び総秘達第六六六号通達により、昭和五七年一一月一日以降、新たに又は改選により、公職の議席を得た者に対しては兼職の承認を行わないものとされるに至ったが、〈証拠〉によれば、その以前には国鉄職員の市町村議会議員との兼職はむしろ推奨され、或は推奨されないまでも、兼職を認められない例が殆どなく、職員から所属長に対し、前記兼職基準規程三条の立候補届出がなされても、所属長から職員に対して事前に指導や承認の内示等の措置がなされずにすごし、当選後、兼職の承認がなされるという取扱いがなされてきた実情であったことが認められるのであるが、このような取扱いの実情は、従前、当選者の兼職を不承認とする例が殆んどなかったため、事前の措置を講じなくても何ら混乱が生じるおそれがなかったことによるものと思われかつての前記取扱いの実情をもって前記の解釈を左右すべきものではない。

三当審の補足主張一について

この点については前記二2の訂正部分の説示のとおりであって、確かに当選の事前において、指導や承認の内示等の措置が採られずに、当選後の兼職承認がなされてきた大方の実情であったことを認めうるものの、このようなかつての取扱の実情があったとしても、「承認を得ることによってのみ職員の地位を兼ねることができ、承認が得られなければ当選の告知とともに職員の地位を失う」ものと解することの妨げとなるものではない。

四以上のとおり、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法八九条、九五条、九三条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官奈良次郎 裁判官石井彦壽 裁判官伊藤豊治は退官につき、署名押印することができない。裁判長裁判官奈良次郎)

別紙(控訴人らの補足主張)

国鉄には、昭和三九年一二月一〇日に発せられた内部通達である「公職との兼職基準規程」三条の「職員が市町村議会議員に立候補したときは、その旨を所長に届出で、兼職承認に問題のある職員については、不承認を示唆するなどして事前に対策を取り、問題のない職員に対しては、当選の告知前に、当選を停止条件とする明示ないし黙示の承認を与えていた」との事実関係は国鉄の現場には存在しなかった。したがって、当選後に兼職承認願を提出させる扱いが、停止条件の兼職承認を手続上明確にするためのものであるということはありえない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例